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小生d1.2takaの写真日記その他でございます<(__)>


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昏き墨水・貴美子版ト書き

①節電の叫ばれる夜......。
隅田川の川舟に乗って夜風に当たるのは、私にとってこの上ない気晴らしだ。
私は墨水。
俳人とまで語るには少しおこがましい、予備校の講師が本業の男だ。

途中の船着き場から、浴衣姿の知った顔が乗ってきた。
「先生」
「三浦くんか」
「三浦貴美子です、先生」
ひどく地味な黒地の浴衣に黒蓮の髪飾り。
それを指摘してみると
「私自身を送る装束なんです」

この娘、身を投げる気か.....。
みずからの罪滅ぼしをするという娘を、ただ見送った無力感に、
再び私は囚われそうになった。

②「講義のあとで、質問に来てくれたことがあったね」
国文の、心中物の精神を問うものだった。
彼女はそれに答えず、自分の話を始めた。

母ひとり、娘ひとりの母子家庭だった彼女。
母の再婚。
継父。

「継父に襲われたんです」
淡々と、言葉を飾りもしない。
「一度だけだ、許してくれって....」

それでなのか、と反射的に私は言ってしまった。
同じ轍を踏んでいるという思いが、苦々しく湧きあがってくる。

「それが原因で、心筋梗塞を起こしたんです」

服上死か、今度は言葉にせずに済んだ。
私はどういう顔色でこの話を聞いているだろうか。
冷静さを保っているようにみせられているだろうか。

「でも、それだけじゃなかった」

③「継父は、あの発電所から遠くない土地に住んでたんです。
五十路がらみで嫁もないやもめ暮らしだった、と言ってました。
避難がてらこちらに出てきて、母と知り合ったんだそうです」

まるで懺悔しながら私に許しを乞うているようだ。
この娘の罪ではないだろうに。
継父を「ちち」と話すのは、どういう次第だろう。

「心臓が弱かったひとなんです。
それなのに心臓に悪いっていう強精剤が遺品にあって、不自然だと思いました。
母は母で、直後に
外聞が悪いから、夫婦のことの最中だったことにするから、って」

「お母さんと君の血液型は同じだったかな?」

貴美子がうなずいた。
愉快でない想像が私の内心に渦を巻く。
母君が、か...

④「その後の母には、継父の死亡保険。
発電所ちかくの土地の相続、そこからの補償。
.....あなたには悪かったわね、でもこれで心配ないから、って」

納得できなかったんだね?と私は訊いた。我ながらしわがれて聞きづらい声だ。

「地震で取引先がなくなっちゃってね、私も職がないの...って。
仕組んだの、と聞いたら応えてくれませんでした。
けっきょく母には、正直に生きる勇気も、死を選ぶ勇気もなかったんです」

まさかと思うような話だ。私は言葉を失ったまま、舟窓の対岸を眺めるしかなかった。

「この世のなごり 夜もなごり....」
気が付くと、彼女が『曽根崎心中』の暗唱をしている。

「夢の夢こそあわれなれ」
私は割って入った。
「この世から解放されることだけが、君の救いだと思ってほしくない」
心中する相手もいないだろうに。

「君が潔癖さと勇気を証明しようとしているのは分かった。
だがそれで、誰を救える?君自身か?
君自身を救えたとしても、君は犠牲者でしかないということにならないか」

「どうしろと仰るんですか、先生」

「そうするなら、誰かを救ってからにしろ」

⑤「たとえば私だ」
私は恥知らずだと、この娘に言ってるのも同然だ。
「私の屍を見届けてほしい」
貴美子、怪訝そうな顔をするのも無理はない。
「なに、さして時間はかからない。
私も親父殿と同様の病なんだ」
君が質問に来た時に、私の心は定まっていたらしい。
「つけ加えるなら、あの津波のことだ。
私の身内も過去も、全てが流された」
貴美子、眉をひそめてうつむく君がいとおしい.....

「先生も、そんな目に.....」

「寂滅為楽(じゃくめついらく)とはいかないものだね。
この世の私を、誰かに記憶に留めてほしいと思うんだ。
そうでなかったら、私の存在のあかしが残らない」

⑥舟は下流の折り返し点を回った。
貴美子の視線は私に向いたまま。
私は舟の揺れに身を任せる振りをして、沈黙をやり過ごそうとした。

「先生、ご心配をおかけしました」
深いお辞儀。
きれいに結った髪の、髪飾りがちらちらと船内灯を反射させながら上下する。

「き...三浦、迷惑だと思ったら...」
さっきのことは忘れてくれ、と言おうとした。

「迷惑をかけたのは私のほうです」
瞳に決意の色が浮かんでいるようだ。前向きには見える。
「先生のお言葉どおりにしようと思います...けど」
間をおいた。どういう間だ?
「おそばにいていいんですよね。たしかな言葉で、約束してほしいです」
私がうん、とまずうなづくと、貴美子はうれしそうな調子でたたみかけた。
「私が『はい』と一言、お返事すれば済むように」
私にこれまで巡ってこなかった場面だ。
もちろん、避けてきたせいもある。
「それとも、先生にお返事いただくようにしたほうがいいかしら?」
ふた回りも下なのに。
まぁ、白旗をかかげるのにやぶさかではないが。
覚悟決まり過ぎだぞ。
「よく聞いておくれ」


...寸前、シカバネもう1回はなしですよ先生、とクギをさされた。
まさにそう口にしようとしていた私は、真っ白になった。
しどろもどろになって晒す、無用な醜態。
自分の言葉は覚えていない。

貴美子が私の左腕の半袖にそっと触れ、ついでゆっくりしなだれかかってくる。
預けられる体重が心地いい。

「はい先生。ずっと、おそばに....」

人は誰かを助けようとして、助けられる。
人は誰かに助けられているようで、助けている。

船着き場までの航程が、私たちの最初の記憶になった。
by d12taka | 2011-10-01 00:00 | フォトストーリー